はじめに
保護者の方から「実験をしたあとはこどもがたくさんお話してくれます」という声をいただくことがあります。ただ実験体験を提供するだけでなく、親子のコミュニケーションのきっかけづくりができているみたいでとてもうれしいです。
そこで、「もっと親子のコミュニケーション機会をふやしたい」という想いと、せっかく実験についてお話するのであれば「家庭学習の効果をもっと高められるのではないか?」とおもい、この記事を書くことにしました。
この記事では、授業後の家庭内でのコミュニケーションを活性化し、学習効果を上げるためのこどもへの質問のしかたについて解説しています。
実験をして帰ってきたこどもにどのような質問をすればいいのか(または、しないほうがいいのか)参考になればうれしいです。
低学年のこどもの脳の特徴・認知特性
小学校低学年のこどもたちの脳は、大人とはことなる特徴をもっています。まずはそれを理解してお話を聞いてあげてください。
具体的思考が先行する
この時期のこどもたちは、科学の「原理」や「理論」といった抽象的な概念よりも、具体的な事象を通してものごとを理解します。たとえば「エネルギー保存の法則」という抽象概念を理解するのはむずかしくても、「高いところからおとした球が、地面におちてはねかえる」という具体的な現象は理解できます。
感性情報と神経ネットワークのつよい結びつき
0歳から8歳までの時期(※14歳までと主張する学者もいます)は、五感(と心)を通じた感覚・感情的な体験(感性情報)が神経ネットワークの発達とつよく結びついています。「見た」「触った」「聞いた」「匂いをかいだ」「びっくりした」といった感性情報が新たな神経回路を構築し、記憶力や思考力の土台になります。
※「感性情報」という言葉は一般的ではありません。五感での感覚体験プラス感情の動きを表現したくて使っている言葉なのでご了承ください
想起(思いだすこと)の効果
これはこどもに限った話ではありませんが、心理学の分野では情報をくりかえし読むよりも、いったんおぼえたことを思いだすことの方が記憶定着(つまり神経ネットワークの強化)に効果的であることが分かっています。親に聞かれた質問に答えるために今日やったことを思いだすことは家庭学習において非常に効果的です。
効果的な質問 と NG 質問
ここまでの情報をもとに、こどもに問うべき効果的な質問と、こどもの脳によくない影響をおよぼす可能性があるNG質問について考えてみます。
効果的な質問例
- 具体的な体験を思いださせる質問
具体的なことを聞く質問はこどもにもこたえやすく、たくさん話してくれる可能性が高まります。実際に工作したものでもう一度一緒に実験をするのも効果的です。- 「今日の実験はなにをしたの?」
- 「水を入れたらどうなったの?」
- 感覚・感情体験を思いださせる質問
実験時の感覚や感情を思いださせることで、神経ネットワークの強化を促します。- 「どんな色だった?」「きれいだった?」
- 「今日はなにが1番びっくりした?」
- ものごとの関連を認識させる質問
実験操作や工作のパーツが、現象や結果にどんな影響をあたえるのかを認識させ、論理的思考や抽象概念の理解への第一歩をサポートします。ポイントは具体的に聞くことです。- 「水をいれるまえはどんな色で、いれたあとはどんな色だったの?」
→「水をいれること」と「色が変わる」ことが関連していると認識する - 「このパーツがないときはどう動いて、あるときはどう動くの?」
→「パーツ」と「動き」が関連していると認識する
- 「水をいれるまえはどんな色で、いれたあとはどんな色だったの?」
NG な質問と注意点
- 「なぜ」ではじまる抽象的な概念(原理や理論)を問う質問
低学年のうちは具体的な事象の背景にある抽象的な原理・理論などはまだ理解していないことがほとんどです。授業ではできるかぎり解説するので軽く聞いてみてもOKですが、「答えられないこと」への恐怖や罪悪感をもってしまう可能性があるので深追いはしないように注意してください。- NG:「なぜ色がかわるの?」
→「水を入れたから!」と答えられればそれで100点です! - NG:「なぜこのパーツが必要なの?」
→「このパーツがあるとまっすぐ飛ぶから!」で十分な回答です!
- NG:「なぜ色がかわるの?」
- 問いつめるような質問
記憶の想起に失敗したときに責めるような質問をしてしまうと、思いだすこと・質問にこたえること自体への抵抗感を生んでしまう可能性があります。うまく思いだせないときはおうちでもう一度実験してみるか「今度の授業でまた聞いてみようね」と伝えてあげてください。LINEや電話で解決しそうであればご遠慮なくお問いあわせください。- NG:「どうしておぼえていないの?」
- NG:「ちゃんと聞いてなかったの?」
おわりに
適切な質問は、こどもの学びを深め、記憶力・思考力・人格形成などすべての土台となる神経ネットワークを強化する最適なツールです。実験教室での学びを家庭でさらに広げ・深める質問をすることで、こどもたちの好奇心や思考力が一層はぐくまれることを期待しています。
保護者のみなさまへ さとしせんせーからのお願い
分からないことやもっとこうしてほしいなどのご要望・ご質問がございましたらご遠慮なくお問いあわせください。すべてを叶えることは難しいかもしれませんが、「科学実験教室」という知的体験に特化した習いごとをしているこどもたちには、教室内でも家庭内でもできるかぎりよい体験をしてもらいたいと思っています。
まだまだ教室として未熟ですし、私自身は子育て未経験なので、毎日全力でこどもと接しているお父さんお母さんのご意見はとても貴重です。
よりよい教室をつくっていけるよう、ご協力いただけますと幸いです。